高校野球の名門、広陵高校野球部で発覚した部内暴力をめぐり、加害者とされる部員の1人が、SNSの投稿によって名誉を傷つけられたとして、東京地検に名誉毀損罪で刑事告訴しました。
この問題は、下級生部員の親権者とみられる人物がSNSで「上級生から暴行を受けた」などと告発したことから広がりました。
日刊スポーツなどによると、加害者とされる部員は「世間の耳目を集めるよう企てた投稿をおこなった」などと主張しているそうです。
また、朝日新聞によると、加害者側は、寮で禁止されているカップラーメンを食べたことを注意する際、下級生部員の「肩を押したり胸を小突いたりした」とは認めていますが、「合計100発をも超える集団暴行」など投稿に含まれる一部は事実と異なるとしています。
刑事告訴の対象は、下級生部員の親権者とみられる人物を含む複数人で、SNSでは生徒名や顔写真が拡散され、加害生徒の名誉を毀損する投稿が相次いだとしています。
夏の甲子園大会途中での出場辞退という前代未聞の不祥事は、刑事事件に発展しかねない状況となっています。はたしてSNSでの告発は違法になるのでしょうか。インターネットの誹謗中傷にくわしい田中一哉弁護士に聞きました。
●事実でも「名誉毀損」になる可能性
──今回、告訴対象には被害生徒の親権者とみられる人物も含まれています。事実を告発した場合でも、名誉毀損の責任を問われることはあるのでしょうか。
刑法230条は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず」名誉毀損罪で処罰すると定めています。そのため、真実に基づいていても、社会的評価を下げる内容であれば、原則として名誉毀損罪が成立します。
当然ですが、「暴行を受けた」という内容がウソであれば、名誉毀損になります。そして、仮に真実であったとしても、告発によって、告訴人の社会的評価が低下することは明らかであり、名誉毀損罪に問われる可能性が高いです。
──一方で「公共性」や「公益目的」「真実性」があるかないかによって、刑事責任が免除されるとも聞きます。今回のケースはどうでしょうか。
最高裁は「公益を図る目的」の有無について、告発する際の表現方法や、事前調査の程度等を考慮するとしています(最高裁第一小法廷昭和56年4月16日判決)。
たとえば、第三者が真偽を吟味せずに、軽率に拡散する行為は、公益目的が否定される可能性があります。また、被害者の親権者が、本人の話をもとに投稿した場合でも、それが「世間の目を集めることを狙ったような表現」であれば、公益目的は認められにくいでしょう。
●プライバシー権侵害にも該当する可能性
──刑事だけではなく、民事でも損害賠償される可能性もあるのでしょうか。
ありえます。未成年者である告訴人を特定できる内容であれば、名誉毀損だけでなく、プライバシー権侵害にも該当し得ます。少年法61条が、未成年者について推知報道を禁じていることからも、民事訴訟で、この点が争われる可能性があります。
●SNS告発は「私的制裁」にあたる
──SNSでの告発は、問題を可視化できる一方で、違法性を帯びるリスクもあります。私たちはどう考えればいいのでしょうか。
SNSを通じた告発は基本的に避けるべきです。法治国家では私的制裁が禁じられており、告発側が処罰されるリスクがあるからです。
犯罪行為に対しては、SNSではなく、法的手続きを通じて救済を求めるのが筋です。
ただし、法的手続きは時間も費用もかかり、被害者が得られる賠償や、加害者の処罰に不十分さを感じることは少なくありません。
その点で、SNS告発が増えている現状には一定の理由もあります。法的手続きの改善が進まない限り、SNSを利用した告発は今後も続くでしょう。